陸上植物の季節に依存して花を咲かせる仕組みの起源を紐解く

河内孝之 生命科学研究科教授、久保田茜さん(元博士後期課程学生)らの研究グループは、苔類ゼニゴケをモデル植物として、植物が季節を感知して花を咲かせる仕組みの原形が花の咲かない祖先的植物が陸上進出したときに既に確立していたことを明らかにしました。
この研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

遺伝子特性学

研究者からのコメント

左から河内教授、久保田さん(元博士後期課程学生)

ゼニゴケというと役に立たたないイメージがありますが、陸上植物の進化における多様性や共通原理を分子レベルで研究するには素晴らしいモデル生物です。私たちの研究室では苔類ゼニゴケの研究材料としての可能性に着目し、独自の研究の展開を推進しています。

陸上植物の生活環は、配偶体世代と胞子体世代という形と核相が全く異なる二つの世代が交互に繰り返すという特徴があります。今回の発見は、日の長さに依存 して成長相転換を制御する仕組みが、被子植物とコケ植物という進化上離れた系統間において保存されていたことを明らかにしただけではなく、配偶体世代と胞 子体世代という異なる世代で共通していたことを明らかにした点においても重要な意味をもちます。今後、ゼニゴケの生殖器官の形成や環境応答に関わる因子の 制御の仕組みを解明することで、植物の繁殖や成長を支える仕組みの原形と進化過程を明らかにすることができると期待しています。

概要 

植物にとって季節を感知して花を咲かせることは、一生を通じて最も重要なイベントの一つです。植物は体内に持つ概日時計を利用して昼夜の長さを測ることで 季節を認識し、最適な季節に繁殖することで自らの生存・繁栄を最適化しています。このような季節に応じて成長相を転換する仕組みは主に被子植物の花成をモ デルとして研究が進められました。その結果GIとFKF1と呼ばれるタンパク質から構成される複合体が、その中心的な役割を担うことが明らかにされていま した。GI-FKF1複合体は、コケ植物をはじめとするより祖先的な陸上植物ではその存在が知られていませんでした。そのため、GI-FKF1複合体によ る成長相制御機構は植物の進化上、維管束植物の出現と前後して獲得された機構であると考えられてきました。

一方、一部のコケ植物においても季節に応じて生殖器を形成する現象は観察されていました。コケ植物の一生は、維管束植物と異なって配偶体世代(核相n)が優占的であり、配偶体世代のなかで成長相転換をします。この違いからコケ植物の生殖器形成と被子植物の花成が関連するかは不明でした。研究グループは配偶体世代における相転換制御の仕組みを解明することで、花成の起源が解明できると考えました。

本研究グループは陸上植物の進化上もっとも基部に位置する苔類に属するゼニゴケに着目し、ゼニゴケのゲノム情報を解析し、ゼニゴケにもGI、FKF1に相同性を示す遺伝子が存在することを見出しました。さらに、ゼニゴケのGI、FKF遺 伝子を欠損させたゼニゴケの変異体では生殖器形成が起こらなくなるのに対し、これらの遺伝子が過剰に蓄積した変異体では季節に関係なく生殖器形成が促進さ れることを見出しました。また、そのGIタンパク質とFKFタンパク質がゼニゴケ体内で複合体を形成することを示しました。これらの結果は、GI- FKF1複合体による成長相制御機構が苔類に存在すること、つまり、植物が陸上化した時点において既にこの仕組みが獲得されていたことを示唆しています。 興味深いことに、ゼニゴケのGIタンパク質は被子植物の体内においても、花成を調節する機能的なタンパク質として働きうることがわかりました。したがっ て、被子植物の花成を支配する仕組みは、コケ植物の生殖器形成を制御する仕組みを起源とするものであり、この仕組みが陸上植物の進化過程で保存されたもの である可能性が示されました。

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詳しい研究内容について

陸上植物の季節に依存して花を咲かせる仕組みの起源を紐解く

掲載情報

京都新聞(4月23日 29面)および日刊工業新聞(4月23日 19面)に掲載されました。