石川冬木教授らの研究グループの研究成果が、米国科学誌 「サイエンス」 誌6月6日号に掲載されました。

分裂酵母においてPot1とTpp1の複合体は、テロメアを保護しテロメアの長さを制御することを発見

2008年6月6日

石川 冬木生命科学研究科教授らの研究グループの研究成果が、米国科学誌 「サイエンス」 誌6月6日号に掲載されることになりました。

 

研究成果の概要

テロメアは染色体DNAの末端部分をさす。細胞が分裂するたびに行われる染色体DNAのコピー (複製) において、テロメアDNAは完全に複製されないために、正常細胞は細胞分裂のたびに徐々に短小化し、それがある長さまで短くなると、増殖を停止して細胞老化と呼ばれる状態におちいる。すなわち、正常細胞は限られた回数のみ細胞分裂を行うことができる。一方、がん細胞は、テロメレースを呼ばれるテロメアDNAを伸長する酵素を活性化させ、細胞が分裂してもテロメアが短くならないために、無限に細胞分裂することが可能となり不死化している。このことが、がん細胞が患者の中で大きな腫瘍を形成し、ついには患者を斃してしまう原因のひとつである。

このように、テロメアは、ヒトの老化や癌化と密接な関係をもち、テロメアを標的とした抗老化あるいは抗がん剤の開発が期待されてきたが、これまで有効な薬剤の開発に成功した例はない。その理由の一つは、テロメアがテロメアDNAと非常に多数の蛋白質からなる複雑な複合体として機能するために、ヒト細胞を使う限り、テロメア機能に作用する薬剤をアッセイする実験が困難であったことによる。

酵母は、単細胞で増殖しながらヒトと同じ真核生物に属し、テロメアをもつ。酵母は遺伝子操作が容易である利点があり、古くより、出芽酵母 (パン酵母) と分裂酵母の2種類の酵母が生物学研究に用いられてきた。出芽酵母と分裂酵母は、一見、似たような構造をしながら、実は進化的に離れた種であり、出芽酵母、分裂酵母、ヒトは三角形の頂点のように、お互いに進化的に異なる生物であると考えられている。

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出芽酵母のテロメア機能と構造は古くより解析されてきた。一方、ヒトのテロメア機能と構造について、最近、多くのことが明らかにされつつある。その結果、ヒト細胞はシェルトリンと呼ばれる特徴的なテロメア複合体をもつが、出芽酵母ではそれに相当する構造が見いだされないことから、出芽酵母とヒトのテロメアは進化的に異なる構造をとっているものと考えられてきた。今回、我々は、分裂酵母のテロメア構造を詳細に観察し、シェルトリンに相当する構造を見いだすことに成功した。このことは、テロメア構造が単細胞真核生物 (分裂酵母) からヒトに至るまで広く保存されていることを意味する。

 従来、薬剤の開発は、ヒトやマウスなどのほ乳類細胞を用いてその効果を検定することがほとんどであった。しかし、上述のように、少なくとも、老化やがん化に密接な関連をもつテロメアに関しては、分裂酵母はヒトの非常によいモデルを提供する。分裂酵母は、遺伝子操作が容易であり、薬剤開発に適したさまざまな技術が蓄積されている。ヒト細胞を用いることでは開発に成功しなかった薬剤が、分裂酵母を用いることで開発されることが期待される。

京都新聞(6月6日 27面)および毎日新聞(6月6日 16面)に掲載されました。

細胞周期学分野