杉田昌彦教授らの研究成果が、「Nature Communications」に掲載されました。

杉田昌彦教授、森田大輔助教らの研究グループは、ウイルス由来リポペプチドを細胞傷害性T細胞に提示する新しい抗原提示分子を同定し、そのX線結晶構造を解明しました。

 

Nミリストイル化リポペプチドを結合したMHCクラス1分子複合体の結晶構造

 

感染防御に中心的役割を果たす獲得免疫系において、ペプチド、脂質に次ぐ、第三の抗原レパートリーと位置付けられる「リポペプチド」に対する抗原提示機構の分子メカニズムを解明しました。その責任分子として、新しいタイプのMHCクラス1分子を同定し、X線結晶構造解析によって、リポペプチドとの詳細な結合様式を明らかにしました。

 

【概要】

ウイルスは、宿主細胞が持つ様々な酵素反応を利用することにより、感染を成立させます。例えば、ヒト/サル免疫不全ウイルスが産生するNef蛋白質は、宿主のミリスチン酸転移酵素の作用により、そのN末端にミリスチン酸を結合します。このようにしてミリスチン酸修飾を受けたNef蛋白質は、細胞膜へと局在し、膜に発現した種々の免疫分子の働きを抑制することができるようになります。すなわちNef蛋白質のミリスチン酸修飾はウイルスの病原性と深く関わった酵素反応であることが知られています。一方、サルエイズモデルを用いたこれまでの研究成果より、ミリスチン酸修飾を受けたNef蛋白質のN末断片(リポペプチド)を特異的に認識する細胞傷害性T細胞が存在することが分かってきました。すなわちこのT細胞は、ウイルスの病原性発揮の鍵となるNef蛋白質のミリスチン酸付加反応を鋭敏に検知し、感染細胞を排除することのできる重要な免疫反応を担うと考えられます。しかし、リポペプチド抗原がどのようにして細胞傷害性T細胞に提示されるのか、その分子機序は不明でした。

 本研究では、サルエイズモデルの詳細な解析から、このリポペプチド抗原提示を担う新しいタイプのMHCクラス1分子(Mamu-B*098)を同定し、リポペプチドとの詳細な結合様式をX線結晶構造解析によって解き明かしました。興味深いことに、Mamu-B*098の抗原結合溝はリポペプチドとの結合に最適化された構造を有していました。これまでMHCクラス1分子は長鎖ペプチドの抗原提示を専門に担うと考えられてきましたが、Mamu-B*098は典型的な長鎖ペプチドを結合しないことが強く示唆されました。この事実は、「MHCクラス1分子は長鎖ペプチド抗原を提示する」と言う広く受け入れられた既成概念を新たに塗り替えるものであり、一部のMHCクラス1分子はリポペプチド抗原提示を担うように進化してきた可能性が考えられます。

ウイルスはその複製過程で自身の蛋白質にアミノ酸の変異を導入し、免疫系からの攻撃を回避する仕組みを備えています。これに対して、リポペプチド抗原には変異の導入が困難であることが知られ、ウイルスの急所を突く画期的なリポペプチドワクチンの開発が期待されます。本研究は、免疫学的新発見をもたらしただけでなく、グローバルな感染症であるエイズの制圧に向けた新たな一歩となるかもしれません。

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図. リポペプチドの抗原提示様式

A. リポペプチドとMamu-B*098複合体の全体構造(解像度1.76Å)。典型的なMHCクラス1分子と同様、Mamu-B*098はa1、a 2、a 3ドメインとb2ミクログロブリン(b2m)から成り、リポペプチドは、a1とa 2ドメインに挟まれた抗原結合溝内に収納されている。

B. リポペプチドとMamu-B*098との結合様式。リポペプチド(黄色いスティック)と抗原結合溝(灰色)とを重ね合わせてみると、リポペプチドの両末端、ミリスチン酸とC末端アミノ酸(セリン)残基が溝内に深く収納されており、これらの部位が結合に関与していることが分かる(上図)。また、MHCクラス1分子が持つポケット構造のうち、ミリスチン酸は大きく疎水性の高いBポケット(赤色)、C末端アミノ酸は親水性の小さなFポケット(紫色)へそれぞれ収納されていた(下図)。

C. リポペプチドの抗原提示モデル。両末端がMHCクラス1分子への結合に関わり、ペプチド中央の3アミノ酸がT細胞の認識に関わる。

 

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」でオンライン公開されました(日本時間2016年1月13日19時)。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10356

Daisuke Morita, Yukie Yamamoto, Tatsuaki Mizutani, Takeshi Ishikawa, Juri Suzuki, Tatsuhiko Igarashi, Naoki Mori, Takashi Shiina, Hidetoshi Inoko, Hiroaki Fujita, Kazuhiro Iwai, Yoshimasa Tanaka, Bunzo Mikami & Masahiko Sugita

“Crystal structure of the N-myristoylated lipopeptide-bound MHC class I complex”

Nature Communications 7, Article number: 10356 Published 13 January 2016