Research研究

Research Results研究成果

津山泰一(元博士後期課程大学院生、現研究員)を中心とする細胞認識学分野(教授:上村匡)の研究成果が、「The Journal of Cell Biology」に掲載されました。

ミトコンドリア関連神経疾患において
特定の種類の神経細胞が強く影響を受けるメカニズムを提唱

研究の背景

 ミトコンドリアは多くの細胞種において、細胞内で使用されるATPの大部分を産生し、その機能低下は様々な神経変性疾患や、神経筋疾患の発症に関与することが広く受け入れられています。しかし、神経細胞内のエネルギー変換能の低下が、どのようにして神経細胞内の反応に影響し、それがどう疾患の発症につながっているかは、未だに不明な点が多く残されています。解明すべき重要な課題の一つが、ミトコンドリアはATP産生というあらゆる細胞の生存・機能にとって極めて共通の機能を果たすにも関わらず、一部の神経細胞種が特に強くその影響を受けるメカニズムの解明です。例えば、Parkinson’s Diseaseにおいては黒質緻密部のドーパミンニューロンが特に脆弱です。これまで、このような神経細胞種特異性を説明するために様々なメカニズムが提唱されていますが、現在でも十分には理解されていません。解明が困難だった理由として、生体内の単一神経細胞レベルで代謝を調べることの技術的な困難さや、ミトコンドリア由来ストレスシグナルの複雑さがあげられます。

研究内容と成果

 私たちは、ショウジョウバエ感覚神経細胞daニューロンにおけるミトコンドリア機能低下に伴う樹状突起短縮化をモデルとして、ATP代謝や細胞内シグナリングに着目してその分子機構を明らかにすることを試みました。まず、ミトコンドリア機能低下の細胞内ATP量やATP代謝動態への影響を明らかにするため、FRETを利用した ATPセンサー・ATeamを用いて、daニューロンで単一神経細胞レベルでのATPイメージングを行いました。これにより、顕著な樹状突起喪失を示すdaニューロンでは、ミトコンドリアからのATP供給能が低下していること、そしてATP消費が低下していることを示しました。そして神経細胞内のATPレベルの変化と、ミトコンドリア機能の異常により引き起こされる樹状突起喪失の進行との関連について検討しましたが、ATPレベルの低下と樹状突起喪失との間に明確な相関は見いだせませんでした。
 次に、突起喪失メカニズムを明らかにするために、ミトコンドリアからのストレスシグナル経路を探索しました。その結果、ミトコンドリアの機能異常により、細胞質内でのタンパク質合成の調節に働くeIF2α (eukaryotic initiation factor 2α) のリン酸化が亢進すること、そしてそのリン酸化の亢進には小胞体ストレスにより活性化されるキナーゼ・PERKが必要であることを発見しました。さらに、eIF2α脱リン酸化を促進させると、様々なミトコンドリア機能不全モデルにおける樹状突起形態の異常が軽減されることを見出しました(図1)。eIF2αがリン酸化されると細胞内の全体的なタンパク質合成が低下することが報告されています。したがって私たちの実験結果は、ミトコンドリアの機能異常がeIF2αのリン酸化を介してタンパク質の翻訳を抑制し、この翻訳抑制が樹状突起の短縮に貢献していることを示しています。
 以上の結果をふまえて、ミトコンドリアの機能異常が新規タンパク質合成へ与える影響を、daニューロンのサブタイプごとに調べたところ、サブタイプによってその効果が異なっていました。ミトコンドリアの機能異常により突起の顕著な短縮を起こすサブタイプにおいて、タンパク質合成の抑制の程度は、他のサブタイプよりも強くなっていました。この結果は、ミトコンドリアの機能異常がタンパク質合成を抑制する程度の強さには、神経細胞種間で違いがあり、この差が細胞種間での感受性の違いに寄与する可能性を支持しています。

本研究の意義と今後の展望

 私たちの結果は、神経系におけるミトコンドリア機能異常に伴う細胞種特異的な変性現象において、eIF2αのリン酸化を介した翻訳抑制が原因メカニズムの一つとなることを示しています。今後は、ミトコンドリアの機能不全が、どのようなメカニズムでPERK 依存的なeIF2αのリン酸化を亢進するのかを解明することが、重要な課題となります。

論文名・著者・本研究への支援

 以上の研究は、大学院生命科学研究科•細胞認識学分野(教授:上村匡)において、津山泰一(元博士後期課程大学院生、現研究員)が中心となり、高次生体統御学分野の今村博臣准教授らの協力を得て行われました。その成果は学術雑誌 The Journal of Cell Biology の2017年3月6日号に掲載(2月16日に発表)されました。本研究の実施には、文部科学省研究費補助金・新学術領域研究「メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤」と基盤研究、研究開発施設共用等促進費補助金/生命動態システム科学推進事業「多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命システムの革新的研究体系の開発・教育拠点」、武田科学振興財団、そして日本学術振興会・特別研究員制度のご支援を頂きました。

書誌情報

DOI: 10.1083/jcb.201604065
Taiichi Tsuyama, Asako Tsubouchi, Tadao Usui, Hiromi Imamura, and Tadashi Uemura
“Mitochondrial dysfunction induces dendritic loss via eIF2α phosphorylation”
The Journal of Cell Biology Mar 6; 216(3), p815-p834.

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