Vladimir Nabokov と蝶(1) 承前

 外部生殖器の形態を徹底して重視する分類手法以上に、私にとって興味深いのが、翅の斑紋の解析を鱗粉レベルに還元しておこなうという Nabokov の姿勢である。これも、当時の分類学者にはなかったユニークな視点であると思う。論文の図を見ると、Nabokov の緻密な仕事ぶりが伝わってくる。

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Nabokov (1944) によるミヤマシジミ属(Lycaeides)の翅裏面の斑紋解析の図

 翅の前縁に沿って打たれている数字(10きざみ)は、翅の基部から数えた鱗粉列(scale line)の番号。

 Nature 406, p. 827 には、同様の図の着色された原図の写真が出ている。

 下の標本写真と見比べてみるとおもしろいだろう。

 さて、下の写真の蝶は、長野県松本市産のアサマシジミ(Lycaeides subsolanus yaginus)である。Nabokov (1949) は新北区(北米大陸)のミヤマシジミ属(Lycaeides)の再検討をおこなったが、同論文中で、材料が十分に得られず扱うことができなかった旧北区(ユーラシア大陸)のミヤマシジミ属についても短く言及し、その中で日本列島のアサマシジミ(Lycaeides subsolanus)の変異に対する特別の関心を記している(p. 848-845)。

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  アサマシジミLycaeides subsolanus yaginus) 雄
  左:表面, 右:裏面
  1978年6月14日 長野県松本市中山にて、荒木・採集。

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