細胞認識学分野の石東博研究員らの研究成果が、英国生物学専門誌Development に掲載されました。

卵を一方向に運ぶ器官を作る仕組みを発見

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左から、石東博研究員、上村匡教授

細胞認識学

研究の背景

 卵管(輸卵管)は卵巣と子宮をつなぐ管で、受精も行われる生殖に重要な器官です。卵管の内側の細胞(卵管上皮細胞)は運動性繊毛を持ち、この繊毛運動が卵巣から子宮へ向かう分泌液の流れを生み出し、卵巣から排卵された卵を子宮方向へと運ぶことが知られています(図1)。しかし、それぞれの繊毛細胞がどのように卵巣方向と子宮方向を見分けているのかについては知られていませんでした。

 このようにシート状の細胞が持つ平面内の整えられた方向性を平面内細胞極性といい、平面内細胞極性の形成に関係するタンパク質が主にショウジョウバエを用いた研究を通していくつか知られていました。石研究員らは、以前に碓井助教(細胞認識学分野)らが発見した7回膜貫通型カドヘリンFlamingoタンパク質の、マウスホモログの一つであるCelsr1タンパク質に着目し、マウス卵管の器官形成における役割を調べました。

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図1:卵管上皮の細胞は多数の繊毛を持ち、それらの繊毛の方向性をもった繊毛運動によって、分泌液と共に、卵巣から排卵された卵も子宮方向へと運ばれる。

研究の成果

 これまで卵管の細胞や形態を詳しく解析した研究がほとんど無かったため、卵管上皮細胞の形態を調べた所、卵管上皮細胞は卵管の管方向に細長い形態をしていることが明らかになりました。

 この細長い細胞のどこにCelsr1タンパク質が存在するかを調べたところ、繊毛運動の方向性が定まるよりも前の時期(生後2日目)から、Celsr1タンパク質が卵管上皮細胞の短い辺(つまり管の長軸とほぼ直交する辺)に偏って局在することが分かりました。このような局在はCelsr1が卵管で機能することを示唆するものです。

 次に、Celsr1遺伝子を失った変異マウスの卵管を観察したところ、卵管上皮の繊毛運動の方向性が乱れ、子宮への輸送能力が損なわれることが分かりました(図2右)。さらに予想外なことに、細胞の形や、卵管上皮が成すヒダ構造にも異常が見つかりました(図2左と中)。正常な卵管では、上皮細胞が卵巣―子宮の方向に伸びた形をしており、上皮シートも卵巣―子宮の方向に沿ったまっすぐヒダ構造を形成しています。しかし、Celsr1遺伝子を失った変異マウスの卵管では、上皮細胞が特定の方向に伸びずにより丸い形をとり、上皮シートのヒダ構造の方向性に異常が見られ、過剰な分岐も見られました。

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図2:Celsr1タンパク質を失ったマウスの卵管では、多階層にわたる様々な極性の方向が損なわれる。

 最後に、Celsr1タンパク質がどのようにこれらの極性を制御しているかを調べるために、Celsr1遺伝子を欠損した細胞と正常な細胞が入り混じった卵管を作成し、観察しました。正常な細胞が多いヒダはまっすぐ正常な形をしていますが、同じヒダの中でもCelsr1遺伝子を欠損した細胞の形や向きは異常でした。このことから、Celsr1タンパク質は、ヒダ構造よりも細胞の形を一次的に制御していることが示唆されました。

本研究の意義と今後の展望

 多細胞生物は様々な器官を通じて生命活動を行っており、多くの細胞から巧妙な器官を作り出すその仕組みは多くの生命科学者の興味を惹くところです。本研究では、ほとんど研究されることの無かった卵管という器官に焦点をあて、Celsr1という一つのタンパク質がマウス卵管の繊毛運動の向き、細胞の形態、ヒダの方向と形といった多階層にわたる様々な極性の制御に必須であることが明らかになりました。少数の因子による効率の良い情報伝達を通じて、数十万を超える細胞の極性が器官形成時に統率されており、生命システムの不思議さを改めて感じさせます。

 また、細胞の形の制御もからだの形作りにおいて重要な役割を果たすとされていましたが、細胞の形の向きを制御するという役割を、平面内細胞極性を司るタンパク質が持つことを初めて本研究で明らかにしました。7回膜貫通型カドヘリンCelsr1タンパク質がどのように細胞の形を制御するか、細胞の形とヒダ構造の形との関連を調べることによって、器官形成の仕組みをさらに明らかにしたいと考えています。

掲載情報

 以上の研究は、石東博研究員(兼京都大学生命科学研究科 研究員・同研究科元博士後期課程学生)、小松紘司元NIBBリサーチフェローと藤森俊彦教授ら基礎生物学研究所初期発生研究部門と上村匡教授が共同し、ベルギー ルーヴァン・カトリック大学のFadel Tissir博士、André M Goffinet博士の協力も得て行われました。研究の成果は2014年11月18日に英国生物学専門誌Development電子版に掲載されます。
Dongbo Shi, Kouji Komatsu, Mayumi Hirao, Yayoi Toyooka, Hiroshi Koyama, Fadel Tissir, André M Goffinet, Tadashi Uemura and Toshihiko Fujimori Celsr1 is required for the generation of polarity at multiple levels of the mouse oviduct
なお、本研究成果はDevelopment 誌第243巻第6号の表紙にも選ばれました。
 本研究は科学技術振興機構CREST、文部科学省科学研究費補助金、基礎生物学研究所からのサポートを受けて行われました。石東博研究員は日本学術振興会の特別研究員(DC1)として本研究に従事しました。