研究科長挨拶

千年の都で生命の謎に挑もう

生命科学とは、「生命の仕組み」を理解しようとする学問です。生命の仕組みというのは、地球が誕生してから46億年の時間をかけて現在までに作られたあらゆる生命現象のルールと言い換えることができると思います。生命現象のルールというのは、実は驚くべきものばかりです。例えば、細胞の中のゲノムDNAはS期になると自動的に正確に複製され、その後勝手に2つに分かれて2つの細胞ができあがります。また、ある生物の精子と卵子が受精すると、受精卵は勝手に細胞分裂を繰り返しながら分化、増殖、移動、細胞死などを決められた場所で自動的に引き起こしながらその生物個体を正確に作り上げていきます。まるで生命は、宇宙の大原則である熱力学の第二法則(エントロピー増大則)にさえ抗っているように見えます。こんな複雑怪奇な現象がどのような仕組みで起こるのか、実はわかっていないことだらけです。そうです、私たちが教科書で当たり前に学んでいる生命現象でも、その詳細なルールについては驚くほどわかっていないことが多いのです。その上、これまで全く知られていなかった、あるいは見過ごされていた重要な生命現象も年々発見されています。まさに、生命科学は研究の宝庫と言えるのです。そして、生命科学研究における1つの大発見は、一瞬にして世界を変えてしまうほどの力を発揮することがあります。実際に私たちは、最新の基礎研究から生まれた新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン開発で、その一例を目の当たりにしたばかりです。もちろん、生命科学は人の病気を治すことだけが目的ではありません。生命の新しい仕組みの発見は、その応用を経て人類の福祉と幸福、さらには地球そのものへの大きな貢献の可能性を切り拓きます。そして何より、生命の新しい仕組みを自分自身で発見した時の喜びと感動は、何物にも変え難いものがあります。生命の緻密さに感動し、その神秘に思わずひれ伏し、生命システムの進化の歴史に思いを馳せるかもしれません。そして、それを論文として世界に公表すれば、その発見は人類の知として永遠に刻まれることになります。宇宙の大原則とか、そんなのどうでもよくなってしまうくらい面白くて心躍るものが、生命科学には詰まっていると思っています。

本研究科は、理学、農学、薬学、医学といった従来の枠組みを超えた世界最先端の生命科学研究の推進と人材育成を目的として、1999年4月に日本初の「生命科学研究科」として設立されました。以来、これまで24年間、生命科学分野における様々な研究領域でトップを走る研究者たちが各研究室を率い、学生やスタッフとともに世界をリードする研究成果を挙げてきました。2018年には、2つの専攻に加えて「放射線生物研究センター」と「生命動態研究センター」を設置し、研究教育拠点のさらなる拡充を図りました。また、2020年には産学協同講座を設置し、研究成果の社会実装の推進を図りました。そして本年4月には、生命動態研究センターを発展的に改組した「生命情報解析教育センター」を設置しました。これにより、データ駆動型生命科学を牽引する新たな研究を強力に推進するとともに、実験科学によるビッグデータ取得と情報解析を同時にこなす「リアル二刀流」人材を育成するための全学ハブを構築し、生命科学分野のデジタルトランスフォーメーションを先導する役割を果たすことを目指しています。

加えて本研究科では、学生と世界をつなぐための海外大学との遠隔講義、学生の海外派遣プログラム、留学生支援プログラム、学生主催の国際学生セミナー、大学間協定による単位互換や共同研究推進システムなど、学生の研究・教育をグローバルにサポートするための様々なプログラムを用意しています。ぜひ、私たちとともに本研究科で生命の謎に挑んでみませんか?その先には、あなたの想像を遥かに超えたエキサイティングな人生が待っているかもしれません。

研究科長 井垣 達吏