機械学習によるがん化シグナルに特異的なγ-H2AX fociパターンの抽出―ストレス応答予測におけるγ-H2AX fociパターン認識の有効性―
- 准教授 井倉毅
- クロマチン動態制御学
概要
ヒストンH2AのバリアントであるH2AXは、放射線によって曝露された細胞でリン酸化され、DNA損傷部位でドット状の構造体(γ-H2AX foci)を作ることが蛍光免疫組織学的解析で明らかになっています。これまでに、ヒストンアセチル化酵素TIP60が、このリン酸化されたH2AXをさらにアセチル化し、がん抑制を促すことを見出していますが、このアセチル化活性がγ-H2AX foci形成にどのような影響を持つのかについては不明でした。今回、井倉毅 生命科学研究科准教授、古谷寛治 同講師、井倉正枝 同研究員からなるグループは、TIP60のアセチル化活性を阻害した細胞と阻害していないコントロール細胞を用いて放射線照射後のγ-H2AX fociの輝度と大きさについて蛍光免疫染色の画像データを機械学習解析し、がん化に特異的なγ-H2AX fociのパターンが存在することを見出しました。今後、この成果は、放射線発がんのリスク回避の予測や抗がん剤の安全性評価などに貢献できることが期待されます。
本研究成果は、2022年12月24日に、国際学術誌「Genes to Cells」にオンライン掲載されました。
放射線照射後のγ-H2AX fociの輝度と大きさが多様であることに着目し、
蛍光免疫染色の画像データを機械学習解析することで、がん化に特異的な
γ-H2AX fociのパターンが存在することを初めて証明しました。
本システムは、低線量率放射線におけるリスク予測評価、放射線誘発発がん予防、
抗がん剤の変異原性判定、毒性検査などに将来的に貢献することができます。
研究者のコメント
「Bulkの細胞を用いた実験では見出すことのできなかった個々の細胞の微弱なシグナルを抽出することに機械学習などの数理的なアプローチが有用であることを今回体感できたことは我々にとって貴重な経験でした。今後、既存の生化学、分子生物学と機械学習を含めた数理的アプローチとの融合研究を展開し、社会的貢献度の高い研究を目指していきたいと思います。」
論文タイトルと著者
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タイトル
Machine learning extracts oncogenic-specific γ-H2AX foci formation pattern upon genotoxic stress
(機械学習によるゲノム損傷ストレス下におけるがん化シグナルに特異的な γ-H2AX fociパターンの抽出) -
著者
Kanji Furuya, Masae Ikura, Tsuyoshi Ikura
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掲載誌
Genes to Cells
詳しい研究内容について
機械学習によるがん化シグナルに特異的なγ-H2AX fociパターンの抽出―ストレス応答予測におけるγ-H2AX fociパターン認識の有効性―
研究者情報
研究者 |
准教授 井倉 毅教員情報
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所属研究室 | クロマチン動態制御学 |
研究室サイト | http://house.rbc.kyoto-u.ac.jp/mutagenesis2/ |