細胞核内のDNAが二重らせんの逆ねじりでゆるむ仕組みを解明―人為的な遺伝情報の読み出し制御による遺伝子治療技術への応用にも期待―

  • 助教 牧 功一郎
  • 教授 安達 泰治
2024/1/25
  • 生体適応力学

概要

生物の遺伝情報を担うDNAは、二重らせんの構造を形成しています。細胞内では、DNAの二重らせんがゆるむことで、様々な機能をもったタンパク質がDNAに結合・集積し、遺伝情報の読み出し・コピー・修復などの多彩な機能が発揮されます。これまで、特定のタンパク質がDNAに対してトルクを発生させることで二重らせんをゆるめる仕組みが提案されていましたが、実際には、ふらふらしたDNAの1点に力をかけてねじるだけでは、二重らせんはなかなかゆるみません。

福手淳平 生命科学研究科博士課程学生、牧功一郎 医生物学研究所助教、安達泰治 同教授は、細胞内において、従来のトルクを発生するモーター分子に加え、DNAの軸回転を抑える構造が存在することで、DNAの二重らせんが逆にねじられる力学的な仕組みを明らかにしました。具体的には、細胞に取り込ませた二重らせんがゆるいソラレン誘導体を蛍光標識することで、DNAの二重らせんがゆるむ発生場所をつきとめました。さらにクロマチン免疫沈降解析により、二重らせんがゆるむ場所では、DNAがタンパク質の集合体にアンカリングされていることを見いだしました。このDNAとタンパク質集合体の結合を阻害すると二重らせん構造が元に戻ったことから、タンパク質集合体へのアンカリングを介したDNAの軸回転の抑制が、DNAの二重らせんがゆるむために必要であることが示されました。

将来は、DNAの二重らせんを人為的にゆるめることで、遺伝情報の読み出しのオン・オフを制御することが可能となると考えられ、新たなゲノム編集・遺伝子治療技術としての応用が期待されます。

本研究成果は、2024年1月23日に、国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。


細胞内でDNAの二重らせんのゆるみが蓄積している領域を示す蛍光画像(左)、および、DNAの二重らせんがゆるくなる力学的な仕組み(右)。モーター分子がトルクを発生するとともに、タンパク質集合体へのアンカリングがDNAの軸回転を抑えることで、DNAの二重らせんが逆にねじられる。

研究者のコメント

「修士課程から『力とDNA』をテーマに掲げ、研究を開始しました。力もDNAも目では見えないので最初は苦労しましたが、二重らせんがゆるいDNAのイメージングに成功してからは研究が一気に加速し、説得力のある結果が次々と得られ、大変うれしかったことを覚えています。今後は、細胞内におけるDNA二重らせんのねじれを自在に操作する技術を開発し、遺伝子編集・治療への応用を目指したいです。」(福手淳平)

論文タイトルと著者

  • タイトル

    The nucleolar shell provides anchoring sites for DNA untwisting
    (核小体シェルはアンカリングサイトとしてDNAのアンツイスティングを誘導する)

  • 著者

    Jumpei Fukute, Koichiro Maki, Taiji Adachi

  • 掲載誌

    Communications Biology

詳しい研究内容について

細胞核内のDNAが二重らせんの逆ねじりでゆるむ仕組みを解明―人為的な遺伝情報の読み出し制御による遺伝子治療技術への応用にも期待―

研究者情報

研究者
所属研究室 生体適応力学
研究室サイト https://www2.infront.kyoto-u.ac.jp/bf05/