シート状脂肪組織の構築と生理機能の発現に働く遺伝子を発見 ―ADAM10 膜貫通型メタロプロテアーゼの役割―
- 講師 碓井 理夫
- 細胞認識学
概要
脂肪組織(adipose tissue)はエネルギーの余剰分を貯蔵するのみならず、多臓器連環の要として全身の生理状態を調節する重要な組織です。しかし、成熟した脂肪組織の機能や病態に焦点を当てた研究に対して、脂肪組織の形成そのものに関する知見は未だに不十分です。ヒトを含む多くの動物種で、脂肪組織の形成において前駆細胞がどのように集合して組織が構築されるのか、その前駆細胞の振る舞いを制御する遺伝子群は何か、そして組織構築が異常になれば機能発現はどのような影響を受けるのかなど、未解明の点は多く残されています。京都大学大学院生命科学研究科 細胞認識学分野においては、ショウジョウバエの成虫型脂肪組織(adult fat body; AFB)の形成過程を生体内イメージングにより観察して、前駆細胞の長距離に及ぶ方向性を持った集団移動、細胞増殖、および同種細胞間の接着を経て、薄いシート状(単層構造)のAFB が誕生することを示していました。そしてAFB は生体内における脂肪組織の構築とその制御機構を研究できる新たなモデル系として注目されるようになりました。
今回、同分野の林優作 元博士後期課程大学院生、津山泰一 元特定助教、碓井理夫 講師、大林匠 修士課程 大学院生、近藤武史 元特定講師(現:理化学研究所 生命機能科学研究センター チームディレクター)、上村匡 同教授(現:京都大学名誉教授)は、医学研究科附属総合解剖センターとの共同研究により、AFB の組織構築とその生理機能の発現において、ADAM10 膜貫通型メタロプロテアーゼのホモログであるKuzbanian(Kuz)タンパク質が重要な働きをすることを明らかにしました。前駆細胞においてkuz 遺伝子をノックダウンすると、脂肪細胞は多層化あるいは細胞塊を形成したことから、一層の脂肪細胞からなるシートの形成にKuz は不可欠です。また、Kuz は前駆細胞の接着開始時に必要であることもわかりました。さらに、構造が異常になったAFB の機能を調べる目的で、kuz 遺伝子あるいはKuz の基質タンパク質をコードするNotch遺伝子のノックダウンを経て羽化した成虫を作出して、飢餓ストレスに対する耐性を調べました。その結果、コントロール成虫と比べてノックダウン成虫では耐性が低下したことから、AFB の機能が損なわれている可能性が示唆されました。今後、この研究を足掛かりとして、脂肪組織の構築と機能発現との関係をより詳細に検証できることが期待されます。
本成果は、2026 年1 月19 日に国際学術誌「Genes to Cells」にオンライン掲載されました。
論文タイトルと著者
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タイトル
Roles of a Drosophila ADAM 10 Transmembrane Metalloprotease, Kuzbanian, in Tissue Architecture and Function of the Adult Adipose Tissue
(ADAM 10 メタロプロテアーゼがキイロショウジョウバエ成虫の脂肪組織の構築と機能に果たす役割) -
著者
Yusaku Hayashi, Taiichi Tsuyama, Tadao Usui, Takumi Ohbayashi, Takefumi Kondo, Kumiko Kokuryoh, Tomonari Awaya, Tatsuya Katsuno, Tadashi Uemura
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掲載誌
Genes to Cells
詳しい研究内容について
研究者情報
| 研究者 |
講師 碓井 理夫教員情報
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| 所属研究室 | 細胞認識学 |
| 研究室サイト | https://www.cellpattern.lif.kyoto-u.ac.jp/ |
