発芽時の幼植物を光による害から守る新しい遺伝子を発見

  • 教授 中野雄司
  • 准教授 宮川拓也
  • 助教 山上あゆみ
2025/10/21
  • 全能性統御機構学

概要

土の奥深くは光の届かない暗闇です。この深く暗い場所で発芽してしまった植物は、発芽後最初に現れる茎である胚軸をもやし状の形で伸ばし、その胚軸の先に付く最初の葉である子葉は葉緑体を持たない状態に保ちつつ、早く地表に出ようとします。そして、子葉が地表に出ると、子葉は緑化して光合成を始めます。光合成は、クロロフィル(葉緑素)が光エネルギーによって活性化することによって始まりますが、このようなクロロフィルの活性化が過剰になると、細胞に害を与える場合があり、クロロフィルは「諸刃の剣」のような物質であると考えられてきました。さらに、このような光による害(光ストレス)は暗い場所で発芽した植物が初めて光に出会う時によく生じる現象であることも観察されていましたが、植物が光による害を回避し健全に光環境へ順応する仕組みについては明らかになっていませんでした。

京都大学大学院生命科学研究科 立花諒 日本学術振興会特別研究員 (研究当時博士課程学生/現 英国ケンブリッジ大学博士研究員)、明間莉乃 (研究当時修士課程学生)、中野雄司 教授、宮川拓也 准教授、山上あゆみ 助教、北海道大学 田中亮一教授、大阪公立大学 小林康一教授、吉原晶子 (博士課程学生) らの共同研究グループは、暗所で発芽した幼植物が明所へと育つ環境が変わる際に、幼植物を光ストレスから守る新しい遺伝子BPG4 HOMOLOGOUS GENE 2 (BGH2) を発見しました。研究グループは、2024年に「光によって発現誘導される葉緑体ホメオスタシスファクター(恒常性因子)」BPG4を発見していましたが、このBGH2はBPG4の相同性遺伝子でありながら、逆に「暗所において誘導される」という特徴を持っていました。さらにBGH2は、クロロフィル生合成のマスター転写因子GLK1/2の働きを暗所で抑制し、クロロフィル前駆体の過剰な合成を防ぐことによって、暗闇から初めて光に出会う植物が発生してしまう活性酸素発生やそれにより起きてしまう細胞死を抑制し、子葉の健全な緑化を促進する因子であることが明らかとなりました。

この研究成果は、植物が「暗闇から光へ」と適応する際に起こる葉緑体形成の分子メカニズムを明らかにすると同時に、植物の光ストレス耐性の制御や色素体制御による新植物の創製を目指す新技術開発、などに繋がると期待されます。

本研究成果は、2025年6月22日(現地時間)に国際学術誌「The Plant Cell」に掲載されました。

図1. BGH2破壊株では、正常な光環境への順応が行われず、黄化したまま枯死する
上段:野生型またはBGH2破壊株を暗所で生育させた後に連続光を照射したときの表現型
下段:野生型またはBGH2破壊株の光環境順応メカニズムの作業仮説

 

論文タイトルと著者

  • タイトル

    Dark-inducible BGH2 maintains plastid homeostasis to adapt for the light environment by suppressing GLK transcription factors
    (暗所誘導性因子BGH2は、GLK転写因子を抑制することにより、光環境へ適応するために色素体の恒常性 (ホメオスタシス) を維持する)

     

  • 著者

    Ryo Tachibana1, Rino Akema1, Akiko Yoshihara, Chihiro Ujihara1, Kaisei Nishida1, Shunshu Ri1, Ayumi Yamagami1, Takuya Miyakawa1, Koichi Kobayashi, Ryouichi Tanaka,Takeshi Nakano

  • 所属

    Laboratory of Plant Chemical Biology, Graduate School of Biostudies,Kyoto University,
    Kitashirakawa-Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8502, Japan
    Department of Biology, Graduate School of Science, Osaka Metropolitan University,1-1 Gakuen-cho, Naka-ku,Sakai, Osaka 599-8531, Japan
    Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University, Kita-ku, Sapporo, 060-0819 Japan
    Present address: Department of Plant Sciences, University of Cambridge, Cambridge CB2 3EA, UK

  • 掲載誌

    The Plant Cell

詳しい研究内容について

発芽時の幼植物を光による害から守る新しい遺伝子を発見

研究者情報

研究者
所属研究室 全能性統御機構学
研究室サイト https://plantchembio.lif.kyoto-u.ac.jp/