妊娠中の女性ホルモンは胎児の栄養環境とその後の成長に影響する―mPRε受容体を標的とした妊娠糖尿病治療薬開発の可能性―
- 教授 木村 郁夫
- 特定助教 渡辺 啓太
- 生体システム学
概要
木村郁夫 生命科学研究科教授、渡辺啓太 同特定助教、山野真由 薬学研究科博士課程学生、宮本潤基 東京農工大学准教授らの研究グループは、母親の脂肪組織にあるmPRεという細胞膜上の受容体が、妊娠に伴って上昇する女性ホルモン、プロゲステロンを感知することで、胎児の栄養環境を調節することを発見しました。これにより、母親の妊娠中に摂取した栄養(ブドウ糖:グルコース)が自身ではなく胎児に優先的に供給されることによって、子の正常な発達を促す結果、出生後の代謝異常を抑えることをマウス実験で確認しました。このmPRεが活性化することで母体の脂肪組織でのインスリン感受性が低下し、グルコースの取り込みが抑制されることで胎児への効率的なグルコース供給が可能になります。
妊娠中の母体の糖代謝調節が正常に働かないと、低出生体重児や巨大児の出生に繋がる結果、発育中の子どもにとって肥満や糖尿病のような代謝性疾患発症の危険性が高まります。本研究結果は、女性ホルモンとmPRεを介した、臓器間-母胎間情報センシングネットワークの新たな解明にとどまらず、プロゲステロン製剤にみられる副作用を回避した、mPRεを標的とした妊娠糖尿病のような周産期疾患に対する新たな治療薬開発に繋がることが大いに期待されます。
本研究成果は、2025年3月13日に、国際学術誌「Cell Reports」にオンライン掲載されました。
論文タイトルと著者
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タイトル
Maternal progesterone and adipose mPRε in pregnancy regulate the embryonic nutritional state
(妊娠中の⺟体プロゲステロンと脂肪組織のmPRεは胎児の栄養状態を調節する) -
著者
Keita Watanabe, Mayu Yamano, Junki Miyamoto, Ryuji Ohue-Kitano, Yuki Masujima, Daiki Sasahara, Yuki Mouri, Nozomu Kono, Shunsuke Inuki, Fumitaka Osakada, Kentaro Nagaoka, Junken Aoki, Yuki Sugiura, Hiroaki Ohno, Eiji Kondoh, Ikuo Kimura
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掲載誌
Cell Reports
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DOI
10.1016/j.celrep.2025.115433
詳しい研究内容について
研究者情報
研究者 |
教授 木村 郁夫教員情報
特定助教 渡辺 啓太教員情報
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所属研究室 | 生体システム学 |
研究室サイト | https://www.biosystem.lif.kyoto-u.ac.jp/ |