統合生命科学専攻

遺伝子特性学

研究概要

研究内容

私達の研究室では植物らしさのひとつである環境因子による”レジリエント”な発生に興味をもち、細胞増殖や分化制御の制御機構の解明を目指しています。分子遺伝学的な解析を中心に、遺伝子、分子、細胞、個体、生態系の各レベルの垣根を超えた研究を目指しています。苔類ゼニゴケをモデルとして活用し、陸陸上植物の進化に着目して研究を進める点にも特徴があります。具体的には以下の研究を進めています。

  1. 植物の光依存的な成長制御の分子機構
    光は、植物の生長にとって最も大きな影響を与える環境因子です。我々は、植物の光受容機構と光受容から生理応答へ到る信号伝達機構の解明を目指して研究を進めています。光化学の法則としても知られますように、物質に吸収された光のみが反応に関わります。生物の光認識にも光が光受容体に吸収されることが必須であり、光受容体は物理的シグナルである光を生物情報に変換する鍵分子となります。そして生物は、光の強度、光質(波長)、光の方向、光の照射期間やタイミングといった光情報を感知し、生存する場の光条件に適切に応答することができます。我々は、苔類ゼニゴケが植物の基本的な光受容体であるフィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンを1分子種ずつしか持たないことを生かし、光の光受容体が協調することで、植物が光環境に適切に応答する機構の解明を目指しています。現在は、フィトクロムを中心として研究が進行中です。被子植物ではフィトクロム分子種によって役割が分担される応答を、ゼニゴケでは1分子種のフィトクロムが担っています。ゼニゴケのフィトクロム分子を詳細に分子解剖的に調べることで、フィトクロム信号伝達のメカニズムとその進化の理解aが進むと期待しています。
  2. 植物の環境依存的有性生殖誘導機構と進化
    植物は季節の変動を正確に感知し、生活環を最適化します。なかでも、花成制御に代表される有性生殖プログラムの誘導制御は、次世代の存続と多様性を維持するうえでの鍵であり、植物の繁栄に重要です。これらの制御の鍵因子の同定は被子植物であるシロイヌナズナを中心に解析されてきました。花成は複相2nである胞子体世代での器官発生制御ですが、基部陸上植物であるコケ植物では単相nである配偶体世代において栄養成長を行っていた個体が生殖細胞を形成することが有性生殖を誘導する第一歩となります。我々は、日長や光質といった環境を識別して発生プログラムを転換する応答機構が陸上植物進化において保存されていることを見出しました。また、生殖細胞系列の決定の鍵因子となる転写因子BONOBOを発見しました。現在では、環境依存的なBONOBO遺伝子の発現制御機構を研究するとともに、BONOBO遺伝子に制御される標的遺伝子の機能解析を進めることで、陸上植物の生存戦略に迫る研究を展開しています。
  3. 半数体生物の性分化と性決定機構
    生物にとって、性決定と性分化は有性生殖を進める上で重要です。しかし、性決定の機構は生物によって極めて多様です。また、多くの生物では性決定は複相世代で行いますが、コケ植物のように単相世代で性が決定される生物もいます。我々は、苔類が性染色体をもち、単相世代で性が決定されることに注目し、ゼニゴケから性決定遺伝子Feminizerを同定しました。これは世界で初めて半数体生物における性決定と性染色体進化を明らかにした大きな成果です。現在は、この遺伝子の制御下にある常染色体上の性決定ローカスのクロマチン状態に着目した研究を展開しています。また、驚いたことに、雌の性染色体上にコードされるFeminizerには雄の性染色体上に相同遺伝子が存在し、両者は共通して有性生殖の誘導の機能をもっていました。ここには性決定因子の成立と進化に迫るヒントがあると考え、Feminizerとその性染色体間ホモログの機能の差異と共通性に関する解析を進めています。
  4. 植物ホルモンを介した信号伝達系の成立と進化
    我々の研究室が中心となって国際共同研究により進めたゲノム解析では、陸上植物進化に関連する多くの示唆が得られました。多くの制御システムは陸上植物の出現と前後して成立したことがわかりました。例えば、植物ホルモンオーキシンの生合成酵素、受容体、信号伝達因子は陸上植物の出現とともに一連のセットとして完成したことがわかりました。ゼニゴケは遺伝子重複が少なく、制御の原理の解明に適していることも明瞭に示されました。一方、ゼニゴケでは、ジャスモン酸やエチレンといった植物ホルモンでは被子植物で活性型とされる分子を欠くものの前駆体が生理活性をもつことも示されています。現在、我々は光環境に依存して生合成酵素発現が誘導され、成長と有性生殖誘導に関与することがわかってきたジベレリンに注目し、植物ホルモンの信号伝達系に成立と進化に関する研究を展開しています。

主な研究項目

  • 光環境の受容と信号伝達
  • 半数体生物の性決定と性分化
  • 環境依存的なクロマチン状態の制御機構
  • 植物ホルモン信号伝達の進化

メンバー

河内 孝之教授

tkohchi*lif.kyoto-u.ac.jp 教員情報

安居 佑季子准教授

yasui.yukiko.7a*kyoto-u.ac.jp 教員情報

吉竹 良洋助教

yoshitake.yoshihiro.7v*kyoto-u.ac.jp 教員情報
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アクセス

吉田キャンパス 北部構内 農学・生命科学研究棟

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